STORY
始まりは、「これから障がいの有無に関わらず大切な子ども達を預かる保育園を建てるので、候補の土地を一緒に見て欲しい」と、オーナー様のお電話からでした。富津にて障がい者の雇用促進の為にラン栽培を手掛けていらっしゃるオーナー様が子ども達の未来の為に障がいの有無で預かる預からないを決めるのではなく、誰でも入所できる保育園を造りたい、との思いから始まったプロジェクトです。
プロジェクトは土地探しから始まりました。木更津の真船、千束台の区画の複数の土地を共に拝見しながら、最終的に決まった土地が3方向道路の現在の敷地。
この土地は30年ほど前に山を開発し、宅地としたエリアの一角。東京からのアクセスも良いことから、近年は30代の若いご夫妻の移住が進んでいるエリア。
敷地は開発地の中でも高台に位置し、北の眺望は海岸方面の住宅地と山間の緑が美しく、西は火力発電所の煙突群を望む夜景の美しい見通しの良い一画。
敷地の形状は3方向道路。どこからでもアクセスすることができる角地の敷地。
配置計画を考える上で、人と車の動線計画、北に緩やかに下る道路勾配からの敷地基準、そして西側の地域のゴミ置場との関係、三つの課題を解決する提案が必要となりました。
園長先生からの建物の条件は、感染予防ためにも親を室内に入れないこと。遊び場の確保。園長先生が室内を見通せること。障がいの有無に関わらず預かるため子ども達のリフレッシュを目的としたリフレッシュルームの設置を求めらました。
同時に私たちは敷地の条件、建物の条件以外に、地域へ向けてこの建物が果たす役割、100年先を見据えた建築デザインの在り方、コストバランスに対してのより良い回答をすること。
そして、このプロジェクトの大きなテーマは『子ども達の記憶に残る保育園』
生まれて初めて出会う親以外の人達との生活。
この場所で過ごした記憶が子ども達の心の成長の一助となるような建築を造ることを考えました。
その結果、オーナー様の思い、園長先生の思い、そして私たち設計者の思いを実現したのが、この保育園です。
・敷地条件からのアプローチ計画
車でのアプローチをメインとして考えた時、木更津市内から千束台トンネルを抜けて、敷地に向かう東側道路を入口動線と考え、一方通行で西へ抜ける出口動線が自然な流れと仮定し、アプローチを考えました。
・配置計画
道路と敷地のレベル差が少ない南側へ駐車場を配置したのは、南側の住宅地への配慮として、建物の間隔を空ける為でした。結果、建物は最大限北側へ配置。より道路から見通すことができ、地域へ開く配置となりました。
・建物条件からの建物構成
子ども達の園庭の確保と建設コストのバランスを考え、事務所棟 (事務所・給食室)と保育棟を分けることをご提案。事務所棟も中央に半屋外のエントランスアプローチを設け、保護者動線を確保し、左右に事務室と給食室を分けて計画。南側の駐車場から事務所棟中央の半屋外のエントランスアプローチを抜けると園庭。その先には保育棟。保育棟は園児用の部屋のみで構成し廊下がない回遊できるプランとした。この建物計画により親御さんは、事務所棟の中央の半屋外のエントランスアプローチを抜け園庭に向かい保育室に入ることなく園庭から子どもを預け、お迎えが可能となる配置計画とした。感染対策が建築デザインの重要な要素の一つとなっています。
・建築について
保育棟には廊下がないことで外部に縁側的な空間を造りました。その縁側的な空間の上部の庇の出が1mと1.2mにて設けて、雨に濡れない計画とした。そして園庭上部の大きな庇は、事務所棟と保育棟を繋げ、小雨でも園庭で外遊びが出来るように配慮。内と外を曖昧にする仕掛けとなっています。
3月のお引き渡しから直ぐにこの庇の軒下にツバメの巣が作られ子育てを始めたとの事。子供達も一緒にツバメ達の成長を見届けたとお聞きしています。
事務所棟東側の園庭側に配置した事務室の園長先生のデスクからは園庭、保育室の子供達と保母さん達の様子を見守る配置としました。
そして、障がいの有無に関わらず預かる保育園としては、事務室の一角にリフレッシュ室を設け、興奮した子供どものクールダウンとなる少し閉ざされたスペースを設けました。
この様に、小さな建物でも敷地全体をフルに活用し豊かな空間をつくことで、子ども達の成長の一助になり、記憶に残る子ども達の笑顔が絶えない保育園となると信じています。
DATA
所在地:千葉県木更津
竣工:2022年 3月
主要用途:保育所
敷地面積:454.55m2・建築面積 177.25m²・延床面積:173.13m2
構造:木造・坪単価:170万円(外構込)
構造設計:株式会社KAP・施工:株式会社 佐久間工務店