STORY
家族が巣立ち、定年を迎え、第二の人生の再スターを切るご夫婦二人の為の「終の住処」を考えたプロジェクト。
ただの四角い箱ではなく、特徴のある家に住みたいとおっしゃった、クライアントの何気ない一言からプロジェクトが始まった。
決して広くは無い、敷地を目一杯活用して建築のボリュームを考えて行く過程で、壁のあり方について、何度も検証が行われた。
四角の箱より、壁が斜めの方が中に居る時に広く感じられ、外部のボリュームもそれぞれの角が斜めに切り取られる事で、逆に敷地に広がりをもたらしてくれる。
後ろ側の隣地のお宅に面している所を除いて、3面はそれぞれに最大限の内部空間を確保する為に、斜めの壁で構成されている。
斜めの壁を構造体でどう作るかが、次の課題となった。コスト面から、主体構造は木造しか無く、特徴的な斜めのボリュームを如何に表現するかが、最大のポイントとなった。
最終的に選択した方法は、斜めのボリュームを主体構造メンバーで直接組み上げる事にした。
大きな傾いた木造の箱を意匠的にデザインした角度で、トラスの様に在来工法でくみ上げて行く方法を構造家と一緒に解決していった。
建物のゾーニングは、引退後の夫婦二人で生活を考えて、非常にシンプルな構成となっている。
一階部分には、家のプライベートな部分(寝室・浴室)を設け、2階にはリビング・ダイニング・キッチンとパブリックな部分を配置している。
完璧に、私的な部分と公的な部分を上下階で分けた。建物の仕上げは、屋根と壁を含め同じガルバニューム鋼板で建物全体を同じ素材で包んで仕上げた。
ユニークな形態をしたこの住宅を終の住処の快適性と断熱効率を上げる為に、外壁は通気工法で仕上げている。
終の住処の居住性を上げる為に、様々な工夫がなされている。
いつか訪れる「老い」に備えて、階段の幅や蹴上げの高さは、通常よりも使い手に優しい寸法で設計している。
二階のキッチンはリビングを一望できるオープンで自然光に満ちて、円形のダイニングテーブルと一体になった機能的なこの家の司令塔的な役割として、考えられた。
木下地にステンレスの天板と化粧合板の仕上げの組み合わせで、コストを抑えながら、存在感を演出している。
トイレの遊び空間:リビングのコーナーに設けられた黄色の箱。一見する と用途がわからない。
キッチン上部吹き抜けスペースに設けたロフトスペースは多目的なフリースペースとして設計された。
お孫さん達が遊びに来たときは格好の遊び場として、ご夫妻にとっての読書コーナー、来客時の客間スペース等、自在に対応できる魅力的な空間ができた。
ロフトからは、近隣の連なる屋根の景色が借景として映り込んでくる。
斜めに立ち上がる壁が特徴のこの建物は、外観のユニークさだけで無く、内部空間の解放感を演出している。
床から始まる壁が上に行くにつれ広がって行く事で、実際よりも視覚的に広がりを持つ空間を可能にしてくれる。
慎重に検討して設計して設けた開口部の配置が、家の中にいて、刻々と変化しながら入り込む自然光を楽しむ事を日々の生活に持ち込んでくれた終の住処のコンセプトで一番大切だった、
光が巡る空間を実現できたのは、多面的に感じられる「斜め壁」の存在感であり、幾重にも広がっていく自然光の広がりを受け止めてくれる無二のパートナーである。
このご夫妻の第二の人生の快適な器になってくれていると信じている。
DATA
所在地:千葉県習志野市
竣工:2010年 12月
家族構成:ご夫婦
主要用途:専用住宅
敷地面積:65.25m2・建築面積 38.88m²・延床面積:81.30m2
構造:木造・坪単価:86万円
構造設計:KAP・施工:株式会社 女性建築家チーム